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食物中の澱粉の消化と吸収

2. 食物中の澱粉の消化と吸収
交感神経系は、腸液の分泌を抑制するように働きます。
食物中の蛋白質は、主として、膵液に含まれる数種の蛋白質分解酵素によって、個々のアミノ酸へ分解された後、吸収されます。
     表 消化に関係する酵素などの物質および数値
     図 消化管の分泌と、食物中の糖質の消化および吸収

2・1. 澱粉の性質


植物は、葉、茎、幹、根などの細胞の細胞質中に、不溶性の澱粉粒 (澱粉顆粒) として澱粉を蓄積します。
特に穀類 (米、麦、とうもろこし、など) は種子に、そして芋類は塊茎に多量の澱粉を貯蔵します (貯蔵澱粉)。
加えて、種子や塊茎の細胞の液胞は老廃物をほとんど含んでいません。
貯蔵澱粉は大多数の人類にとって、量的に最大、最も経済的、しかも健康にとって最良のエネルギ源および炭素源です。
人類が主食としている澱粉を得るための植物の種類は少なく、ほとんど下記のものだけです。
米、麦、馬鈴薯 (じゃがいも) および薩摩芋 (さつまいも)
タロ芋: 里芋の一種で、特にオセアニア諸島の住民の主食。
キャッサバ芋: 熱帯および亜熱帯の高さ 1-3 m の落葉樹で、手のひら状の緑葉をつけ、澱粉に富む塊根が食用。
サゴ椰子: 高さ 10-15 m、幹の直径 40-60 cm の大型の椰子で、幹から澱粉を採り、芽を食用にします。マレーシア語で、サゴは食用を意味します。ちなみに、葉を用いて、マットや篭を作ります。
動物は、澱粉の代わりに、澱粉に似た物質であるグリコーゲンをエネルギ源および炭素源として蓄積するので、グリコーゲンを動物性澱粉と呼ぶことがあります。
澱粉はアミロースとアミロペクチンからなります。
アミロースとアミロペクチンの比率は植物の種類、品種、部位 (葉、茎、幹、根など)、生育環境 (気温、雨量、栄養など) によってかなり異なりますが、通常、15-25% です。
米では餅米、とうもろこしでは餅とうもろこしの澱粉はアミロペクチン含量が高く、良質のものはアミロースを全く含みません。

2・1・1. アミロース


     澱粉 (アミロースおよびアミロペクチン) の構造

アミロースは直鎖澱粉とも呼ばれます。
アミロースは、通常、分子当たり 3 千-1 万個のぶどう糖 (α-D-グルコピラノース) が結合 (α1→4結合) した高分子の長い線状ポリマー (分子量 50 万- 200 万) です。
1 本のポリマの両端の一方は還元末端 (アルデヒド基を持つ側)、そして他方は非還元末端です。
アミロース分子は、その高分子中に、反応性の高い還元末端を1個しか持たないので、細胞に障害をほとんど与えず、貯蔵に適しています。
アミロース分子は左巻きのらせん構造を持ちます。
らせんの一回転は 6 個のぶどう糖分子で形成され、らせんの直径は約 1.3 nm であり、回転ごとに約 0.8 nm 進みます。
アミロース分子はらせん構造を持つので、分子自体が弾力性を持ち、大きく伸びたり、曲がったりすることができます。
水が存在すると、アミロース分子は分子間で、水を介して互いに弱く結合 (水素結合) し、多数のアミロースの結合物 (重合体 )が形成されます。
個々のアミロース分子は水に溶けますが、重合体中のアミロース分子数が限界を越えて増加すると、その重合体は不溶性になります。
アミロースの重合体が水に不溶になる現象はアミロースの老化と呼ばれます。

2・1・2. アミロペクチン


アミロペクチンは分枝鎖澱粉とも呼ばれます。
アミロペクチンは分子当たり 10 万-300 万個のぶどう糖 (α-D-グルコピラノース) からなります。
アミロペクチン分子は、分子上の所々に、多数の小型アミロースが結合 (α1→6 結合) した樹枝状構造を持ち、分子量 1800 万-5.4 億の非常に巨大な分子です。
アミロペクチン分子中の1本の枝は平均 20-30 個のぶどう糖からなります。
アミロペクチンは、アミロースと異なり、分子間で水を介した結合 (水素結合) を形成し難く、ほとんど老化しません。
アミロペクチン含量が高いほど、粘り気の強い餅ができます。
炊飯した米を、適当な方向へ、適当な力でこねると粘り気が増します。
粘り気の増加は下記の事柄によります。
アミロースとアミロペクチンのらせん構造が分子内および分子間で整列すること。
アミロペクチンの樹枝状構造が分子間で絡み合うこと。
こねる力が強すぎると、アミロースとアミロペクチンのらせん構造、およびアミロペクチンの樹枝状構造の枝分かれ部分の分子内切断が起き、粘り気の減少が起こります。
餅の大量生産では、省力化の目的で、強力な機械によってこねるために、アミロース分子およびアミロペクチン分子の断片化がおこります。
市販の餅の中に、粘り気があるにも関わらず、粉末の味 (食感) がするものが増えています。
粉末の味は断片化されたアミロース分子およびアミロペクチン分子に由来します。
小麦粉を使うパンの粘り気 (もちもち感) の主体はグルテンですが、大量生産された食パンなどに感じられる粉末の味は、餅の場合と同様に、断片化された澱粉分子に由来しますと思われます。

2・2. グリコーゲンの性質


グリコーゲンは、澱粉と同様に、多数のぶどう糖が結合した高分子です。
その構造はアミロペクチンに似ています。
グリコーゲンは、動物の細胞中にグリコーゲン顆粒として広く存在します。
特に肝臓と筋肉の細胞はグリコーゲンを多量に含みます。
人では、食事後のグリコーゲン量が最も多いとき、肝臓の細胞 (肝細胞) に含まれるグリコーゲン量は肝臓の重量の約 5% に達します。
体重 70 kg の人が正常時に含む総グリコーゲン量は、エネルギに換算すると、約 300 kcal です。
グリコーゲン分子に含まれるぶどう糖の数は肝臓と筋肉の間でかなり異なります。
その数は、肝臓では 3 万- 6 万個、そして筋肉では 6 千-1 万個です。
体内の脂質や蛋白質に比して、グリコーゲンは生命活動に最も利用しやすい貯蔵エネルギです。
筋肉のグリコーゲンは筋肉の収縮に、そして肝臓のグリコーゲンは他の組織の生命活動に利用されます。
したがって、貯蔵グリコーゲンは空腹時に減少し、安静な生活でも、空腹状態が 4-5 時間続くと枯渇します。
ただし、心臓は脂肪酸を主なエネルギ源として鼓動します。

2・3. 澱粉の消化と吸収


食物中の澱粉の消化は口で始まります。
澱粉は数千個のぶどう糖が結合 (α(1→4)グリコシド結合)したもので、所々で枝分かれの個所 (α(1→6) 結合) があります。
唾液に含まれる唾液アミラーゼ(唾液α-アミラーゼ) は澱粉の結合、ただし、末端と枝分かれの隣りの結合を除いて、無差別に加水分解します。
よく噛まむことによって唾液とよく混合された食物が胃に達すると、胃液の酸性によって、唾液アミラーゼは不活性になりますが、胃に達した時点で、澱粉は 2-8 個のぶどう糖の結合物へ分解されています。
澱粉の消化は、小腸において、膵液中の膵アミラーゼ (膵α-アミラーゼ) の作用によって、さらに進行します。
膵アミラーゼは唾液アミラーゼとよく似た酵素です。
膵アミラーゼによって、澱粉は、2 個のぶどう糖の結合物 (α(1→4)グリコシド結合物) であるマルトース、3 個のぶどう糖の結合物 (α(1→4)グリコシド結合物) であるマルトトリオース、および枝 (α(1→6) 結合) を持つデキストリンと呼ばれるオリゴ糖にまで分解されます。
胃と十二指腸の間に幽門が存在します。
幽門は、ゆっくりした開閉運動を繰り返し、胃に貯留している粥状の食物を少しずつ十二指腸へ送り出すように働きます。
その結果、食物は胃に平均 4 時間止まります。
二糖 (2 個のぶどう糖の結合物)、三糖 (3 個のぶどう糖の結合物)および他のオリゴ糖 (デキストリン) は、小腸粘膜絨毛の細胞膜に結合している下記の酵素によってぶどう糖へ分解されます。
マルターゼ(正式名:α-グルコシダーゼ): α(1→4)グリコシド結合を加水分解し、ぶとう糖を生成。
デキストリナーゼ (正式名:α-デキストリナーゼ): 脱分枝酵素とも呼ばれ、α(1→6) 結合と α(1→4) 結合の両方を加水分解する酵素であり、デキストリンをぶどう糖へ分解。
生じた単糖 (ぶどう糖) は小腸で体内へ吸収され、血流によって運搬されます。
獣肉などに含まれるグリコーゲンは澱粉と同様にぶどう糖へ分解されます。
砂糖(スクロ-ス)は果糖(フルクトース)とぶどう糖の結合物で、小腸粘膜に結合しているスクラーゼ(正式名:スクロース α-グルコシダーゼ) によって、果糖とぶどう糖へ加水分解されます。
スクラーゼはインベルターゼとも呼ばれます。
乳幼児の小腸粘膜には、ラクターゼ (正式名:β-ガラクトシダーゼ) が結合しており、人乳や牛乳などに高濃度に含まれている乳糖 (ラクトース) をガラクトースとぶどう糖へ加水分解します。
乳幼児期から、毎日、欠かさず、高乳糖含有物 (牛乳では、300 mL 以上/日) を摂取しない限り、青春期までに、ラクターゼは完全に消失します。

2・3・1. 唾液


唾液は大唾液腺 (耳下腺、顎下腺、舌下腺) および小唾液腺 (口内に無数に存在) から分泌されます。
顎下腺と舌下腺からは粘性の高い唾液、そして耳下腺からは粘性の低い唾液が分泌されます。
唾液の分泌量は、成人では、1 日当たり 1000-1500 mL です。
唾液の分泌は中枢神経によって制御されています。
大唾液腺から唾液の分泌は交感神経によって抑制、そして副交感神経によって促進されます。 LI>レラックスしている居眠り中に涎が出るのは、副交感神経が交感神経より強く作動しているためです。
緊張しているとき、不安を感じているとき、怒っているとき、などに、口が乾くのは、交感神経が副交感神経よりも強く作動しているためです。
したがって、心配事などがあるとき、唾液の分泌量が少なく、消化不良が起こります。
唾液は消化酵素 (唾液アミラーゼ、リパーゼ) とムチンに加え、リゾチーム、ラクトフェリン、 IgA (免疫グロブリン A) などの抗菌作用を示す物質を含みます。
アミラーゼはジアスターゼとも呼ばれ、澱粉を分解する多種の酵素の総称です。
唾液アミラーゼは慣用名であり、正式名は唾液α-アミラーゼです。
ムチンは粘性の高い物質で、口内の粘膜を保護すると共に、食物を飲み込みやすくします。
唾液に含まれる唾液腺ホルモン (唾液パロチン A) は蛋白質で、歯の形成促進、毛髪の伸長促進などの生理活性を示します。
唾液の分泌は、中枢神経の指令によるだけでなく、食物などを噛めば噛むほど、促進されます。
したがって、「よく噛む」は健康の維持と増進にとって重要です。

2・3・2. 胃液


胃液は胃粘膜に存在する三つの腺 (胃腺、幽門腺、噴門腺) からの分泌液と、胃粘膜の表面を覆う胃表面上皮細胞 (表層粘液細胞) から分泌される粘液からなります。
胃液の分泌は、食物の形、匂い、味などによる条件反射、胃幽門部 G 細胞からのガストリン、マスト細胞からのヒスタミンなどによって促進によって促進されます。
胃液の分泌量は、刺激のない状態で約 80 mL/時、刺激のある状態で約 140 mL/時であり、 1 日平均 2.5 L 程度です。
胃液は、通常、青黄色の透明な液で、0.2-0.5% の塩酸を含み、pH 1.0-1.5 です。
胃液に含まれる酵素はペプシノーゲン、キモシン (レニン、凝乳酵素)、リパーゼ、ペプシノーゲン B、C、D、ガストリクシンなどです。
塩酸の作用によって、ペプシンーゲンはペプシンに変化します。
生じたペプシンは、塩酸と同様に、ペプシノーゲンをペプシンへ変えます。
ペプシンは、pH 2-3 の条件下で、蛋白質に作用し、蛋白質をプロテオースやペプシンにまで分解します。

2・3・3. 膵液


膵液は膵外分泌腺からの分泌液で、その量は 700-800 mL/日で、弱アルカリ性 (pH 7.5-8.0) です。
胃からの酸性乳糜 (にゅうび) が十二指腸に入り、その壁に散在する内分泌細胞からセクレチン、コレシストキニン (パンクレオザイミン) が分泌されます。
セクレチンは膵外分泌腺を刺激し、HCO3-などの塩を含むさらさらした液を出させ、コレシストキニンは酵素含量の高い膵液の分泌を促します。
膵液は少量の蛋白質、有機および無機物質を含みます。
無機物質は主としてNa+、K+、HCO3-、およびCl-であり、Ca2+、Zn2+、HPO42-、 SO42-も少量含まれています。
膵液に含まれる酵素には、トリプシノーゲン、キモトリプシノーゲン、カルボキペプチダーゼ、膵アミラーゼ (α-アミラーゼ)、リパーゼ、コレステロールエステラーゼ、RN アーゼ、DN アーゼ、コラゲナーゼなどがあります。
トリプシノーゲンは腸腺でつくられるエンテロペプチダーゼあるいはトリプシン自身によってトリプシンへ変えられ、活性化され、キモトリプシノーゲンはトリプシンによってキモトリプシンへ変えられ、活性化されます。

2・3・4. 腸液


腸液は、十二指腸に分布するブルンナー腺および小腸全体に広く分布するリーベルキューン腺から分泌されます。
ブルンナー腺は、粘性の高い、アルカリ性の液を分泌し ( 約 60 mL/日)、その分泌液は胃から送られる酸性消化粥の刺激から十二指腸を保護します。
リーベルキューン腺は、血漿に類似した電解質溶液を大量に分泌します (1.5-3.0 L)。
腸液自体は消化酵素を含みません。


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